先生の「徹夜」をなくしたい。PTA会長経験者が所見サポートAIを作った理由
学期末の職員室で、深夜まで通知表の所見欄と向き合う先生方の姿を、私は何度も見てきました。いつしか「徹夜の所見書き」は学期末の風物詩のようになり、先生たちは「今年もこの時期が来た」と苦笑いしながら、睡眠を削って1人ひとりの文章を仕上げていました。結論を先に言うと、所見に時間がかかるのは先生の文章力の問題ではなく、時間の使い方と道具の問題です。だから私は、AIに所見を「書かせる」のではなく、先生が日々残した観察メモを「清書」して下書きにするAIを作ることにしました。この記事では、その判断に至った理由を、元PTA会長として見てきた実体験とともに書きます。
この記事の内容
なぜ通知表の所見作成は、ここまで時間がかかるのか?
所見作成にここまで時間がかかる最大の原因は、先生の文章力ではなく、①学期末という最も忙しい時期に数か月分の記憶をたどって書こうとする進め方、②学校の1日のなかに通知表作成の専用時間枠が存在しないこと、という2つの構造的な理由にあります。つまり、能力ではなく仕組みの問題です。だからこそ「慣れれば早くなる」という根性論では解決せず、同じ苦しさが毎学期くり返されます。
この構造は、教員の勤務時間のデータにも表れています。文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)について」(2024年4月4日公表)によると、小学校の「教諭」の平日1日あたりの在校等時間は10時間45分で、前回の平成28年度調査から30分ほど減少したものの、依然として長時間です。同資料では、これとは別に自宅などへの持ち帰り時間が平日で約37分あり、合計11時間23分と示されています。なお、この調査が示すのは学校にいた時間全体であり、所見作成だけにかかる時間を切り出した値ではありません。学期末は通常業務に成績処理や所見作成が重なりやすいと考えられますが、この点は調査そのものが示した結論ではなく、業務の性質からの推測として捉えてください。
出典:文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)の集計(確定値)について」(2024年4月4日公表)p.10、p.16。原文PDF
私が実際にPTA会長を務めていた頃には、当時の校長先生から「通知表の所見の作業を、各学期末から年1回に、頻度を落とせないだろうか」という打診を受けたことがあります。保護者との対話を重ね、働き方改革の名のもとに、私たちはこれを受け入れました。所見の頻度を減らすという判断に至るほど、先生方の負担が大きかった——この経験が、いまも私の原点にあります。
「代筆」ではなく「清書」をサポートするAIが必要な理由とは?
私がAIに所見を丸ごと書かせる「代筆」を選ばなかったのは、その子を一度も見ていない一般論が通知表に載ることを避けたかったからです。一方、先生が実際に見てきた観察を読みやすい文章に整える「清書」の支援は、先生の一次情報を活かせるため、教育の質を下げるどころか上げます。この「代筆」と「清書」の違いが、所見にAIを使うときの分かれ目です。
AIにゼロから所見を書かせると、その子を見ていない言葉、たとえば当てはまりそうな定型のほめ言葉が混ざりやすくなります。通知表は先生がその子と過ごした時間の記録であってほしいので、私はこの道を選びませんでした。また、ChatGPTなどの生成AIに児童名や成績をそのまま貼り付けて下書きさせる使い方には、個人情報の観点でリスクがあります。この点は「ChatGPTで所見を書くときの個人情報リスクと文科省ガイドラインの読み方」で詳しく整理しました。
そこでセンセイメモは、児童を出席番号だけで扱い、氏名や成績を入力する欄をそもそも設けていません。メモに名前らしき言葉が混ざっても、目印の文字に変えない限り保存できない仕組みです。先生の観察メモから所見・指導要録・面談資料の下書きを作り、最後に読み返して自分の言葉に整える工程は先生の手元に残ります。AIは黒子として、先生の言葉を整えるだけです(詳しくは機能紹介をご覧ください)。
先生の「日記風の観察メモ」は、どうやって所見に変わるのか?
先生が日々のメモを残すとき、文章である必要はありません。「3番、跳び箱5段跳べた」のような一言で十分です。AIはそれを、①具体的な場面(事実)→②そこで見られた変化や成長→③今後への期待、という所見の型に沿って下書きに整えます。この型の考え方は、ピラー記事「通知表所見の書き方 完全ガイド」で解説しています。
たとえば「Aさん、算数で挙手。間違えたけど最後まで説明しようとしていた」という一行があれば、「間違いを恐れずに自分の考えを最後まで伝えようとする姿が見られました」といった下書きになります。学期初めには挙手をためらっていたという記録が別にあれば、そこから「学期を通して自分の考えを出せるようになった」という成長の差分を書けます。所見で保護者の心を動かすのは、評価の強さより「学期中にどう変わったか」という具体的な差分だからです。
このとき効くのは、メモが文章として整っていることではなく、時系列で残っていることです。学期末に記憶をたどるのではなく、学期中の短い記録を材料にするだけで、書く負担は大きく変わります。日々のメモを起点にする考え方は「所見作成にかかる時間を減らす3つの工夫」でも、保護者が所見に何を求めているかは「元PTA会長が語る所見欄から伝わる先生の愛情と苦労」でも扱っています。
まとめ:AIで所見の時間を減らすことは、なぜ子どもと向き合う時間につながるのか?
- 所見に時間がかかるのは先生の能力差ではなく、学期末にまとめて書こうとする進め方と、専用の時間枠がないという構造の問題である
- 教員の在校等時間は依然として長く(小学校教諭で平日平均10時間45分、文部科学省調査)、学期末はそこに所見作成が重なりやすい
- AIに所見を丸ごと書かせる「代筆」は、その子を見ていない言葉になり得るため避けるべきである
- 先生の観察メモを文章に整える「清書」の支援なら、先生の一次情報を活かせる
- 日記風の一言メモを時系列で貯めておけば、学期末はその記録を所見の型に当てはめるだけで済む
- 所見の下書きづくりから解放された時間は、そのまま子どもと向き合う時間になる
AIは先生から仕事を奪うためのものではなく、先生の時間を取り戻すための道具だと考えています。先生が通知表と向き合う夜を少しでも短くし、その分を子どものそばに戻すこと。その一線を守るために、センセイメモは「児童名をサーバーに持たない」設計と「代筆ではなく清書」の方針を貫いています。開発の背景は「開発者の想い」に、使い始めの一歩は「無料で始める」からご覧ください。